涙プールにて
みぞるる

悲しいと思うから
悲しいだけだ

誰かが遠くでそう囁いた

鼻の奥がツーンとして
目の周りがやけどしたみたいに
熱かった





何も知らなかった頃のあたしは
プールで一人っきりになると
潜水ごっこを夢中でこなすことができた

恋を知った頃のあたしは
あの人との遊びを渇望し
触れたい気持ちでいっぱいになる

愛を知ったあたしは
1人プールに佇んで
孤独という言葉に
正面から向き合わなくてはならなくなった





寂しいのはきっと
もう会えないせいではない

この悲しみもいつかは忘れてしまうと
わかっていながら
それでも
吹きすさぶ隙間風を
冷たいと感じてしまうぜいたくのせいだ


 「愛されることが幸福なのではない。
  愛することこそ幸福なのだ。」

そうであるなら
どうしてあたしが
あたしを丸々包み込む水圧に溺れたがるのか
どうしてあたしが
あたしの頬に流れるものを幸せと思わないのか

その答えを
遠くの誰かも囁いてはくれない





悲しいと思うから
悲しいだけだ

誰かが遠くでそう囁いた


最後に触れたあの人の手は未だ暖かすぎて
あたしの隙間は
愛では決して満たされないとわかった

そうしてあたしは
涙のプールに溺れていたい




自由詩 涙プールにて Copyright みぞるる 2009-09-20 10:39:16
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