「虹の旅人」
月乃助


長いあいだ
気づくことがありませんでした
そう それは、旅人たちのしごとなのですね
忘れそうになれば 時にさそわれてくる
軒先に落ちてくる雨色の
無定期の知らせは、

空を裂く
雷鳴のように激甚などでなく
葉がしずくの落ちる
あるかなしかの もろさでもない
それでいて
はっきりと
すがたをみせるのです

輪郭をふちどるように
とめおけば
そのいさぎよさは、思い当たらぬほど
昔は目にすることが
なかったもの

雨の触媒がつくる
ちぎれた虹のように 時に
想いの淡い色を空にかけながら
追いかければ
はるかに遠く逃げていく
触ることも うでに抱くこともできない
美しくあり続ける 色の集積のかげろう
まばゆい 悲しみのむこうにあらわれるのは、
そんなしごとを かせられた
亡くなったものたち
 
せつなく わずかに開いた
暮らしのはざまへ
すべりこんでくる 

あらわれるのなら いつも
うれしくなるのは、時のもたらす
薄れる痛みに濾過された 綺羅だけが
よどみをしらぬ残滓となって 残される
それがためらしい 思い出の国から
さまよいくる旅人の
小さなすがたとなって






自由詩 「虹の旅人」 Copyright 月乃助 2009-09-19 14:15:27
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