貝を煮る
月乃助
巨きな木箱は赤杉の
爪をたてるように 水をそそぐ
息をふく焼け石を投げ入れ 囂々
貝を煮る
牙をとぐ 原始からの導きは
何をも与えられていながら、
選ばず それだからこそ月明の
静謐な心の箱に手ずから
蹴爪を投げ入れるよう
ふつふつと耐えた それは
いかりをふきだし
赤子さながら 湯気にさわぐ
渾然とした創生の 坩堝
箱から産まれるものは
無味をわらい 無常をなげくさまに
堅い殻をこじあける 守られてきた
長らく安穏に眠る
強固ないましめが、破戒された存在 だ という予感に
その熱い蒸気に目をこらし
指をのばせ
煮え返る潮の熱湯を手にすることも、
今は、いとわない
秋を追いかけても なお未詳
おもうように
杉の香にいきどおる 貝を追いつめながら
流れでる 過ぎ去った 膿のような過去の想いの
むらさきの香煙に むせかえり
それでも、
目をそらさず なみだしながら
つぎに ほほえむ口角への
心象の移行のとき
が、やってきた