貝を煮る
月乃助

巨きな木箱は赤杉の 
爪をたてるように 水をそそぐ
息をふく焼け石を投げ入れ 囂々
貝を煮る
牙をとぐ 原始からの導きは
何をも与えられていながら、
選ばず それだからこそ月明の
静謐な心の箱に手ずから
蹴爪を投げ入れるよう
ふつふつと耐えた それは
いかりをふきだし
赤子さながら 湯気にさわぐ
渾然とした創生の 坩堝
箱から産まれるものは
無味をわらい 無常をなげくさまに 
堅い殻をこじあける 守られてきた
長らく安穏に眠る
強固ないましめが、破戒された存在 だ という予感に
その熱い蒸気に目をこらし 
指をのばせ
煮え返るうしおの熱湯を手にすることも、
今は、いとわない
秋を追いかけても なお未詳
おもうように
杉の香にいきどおる 貝を追いつめながら
流れでる 過ぎ去った 膿のような過去の想いの
むらさきの香煙に むせかえり
それでも、 
目をそらさず なみだしながら 
つぎに ほほえむ口角への 
心象の移行のとき
が、やってきた







自由詩 貝を煮る Copyright 月乃助 2009-09-19 02:05:38
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