バルタン星人(怪獣詩集)
角田寿星


暗闇に
浮かび上がる 無駄のないシルエット
黄色く光る 大きな丸いふたつの眼だけが
無表情にこちらを覗いている

バルタン星人だ。

両手のハサミを重そうに持ちあげ
分身を残しながら 音もなく歩み寄り
泡から生れてくることばのように
不確かな像をむすぶ

宇宙忍者
バルタン星人だ。

「生命…?セイメイとは何か。わからない。」

マッドサイエンティストに母星を破壊されて
20億3千万の同胞と共に地球に逃れてきた

0次元の羊水に笑い
母の胎内で妖しく明滅
自らのハサミで胎盤を這い破る
3次元のダイオードを求め
仮想と現実のダーク・ゾーンをさまよい歩き
5次元の真実に
V字形の頭部器官が にぶい光を放つ

宇宙忍者
バルタン星人だ。

古い殻を脱ぎ捨てるかのように
夜のビルを見おろし
ウルトラマンと無言のまま対峙
空中戦のはてに スペシウム光線を浴びて
撃墜された

バルタン星人は
燃えながら堕ちていく。

そして今
背後から
空間のスリットから
幻影の 黄色いふたつの眼が浮遊して消える

バルタン星人だ。

バルタン星人だ。


バルタン星人だ。


自由詩 バルタン星人(怪獣詩集) Copyright 角田寿星 2004-09-12 08:06:50
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