いわない①
相良ゆう

夜の海ほど怖いものはない

宵闇の奥のさらにその奥から
打ち寄せる波の音色は
私の心を光の届かぬ深海にまで
攫ってしまいそうで


ひとつの物語が今日
終わってしまった

私の支えであったひとつの
物語が

だから私は今
海に来ていた


気持ちとは裏腹に
快晴ともいえる夜空を見上げた
月は線のように細く
そして白い

星は?

ちりばめられた
というよりは
いっせいに
責め立てるように
私を凝視しているみたい

そんなふうに思うなんて
これまでに一度だってなかった

観る側から観られる側に
そうなって初めて
ようやく私はすべて
曝け出してしまいたくなった
いやもしくはその逆で
露になったから
そんなふうに思うのかもしれない



自由詩 いわない① Copyright 相良ゆう 2009-09-16 13:49:44
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