サヨナラのテーゼ
南波 瑠以
■秋
すべての色を飲み込んで
ただ透明である、秋
■チャイム
夕陽が窓ガラスに映ったとき
風がいつも置き去りにするもの
■図書館
古びた新築の匂いがする
■デジャヴ
誰かが間違って押した
巻き戻しのボタン
■冬
春にぬくもりを渡して
一瞬だけ銀色の、冬
■体育倉庫
高い跳び箱ほど
空洞は大きい
■グラウンド
四ツ葉のクローバーは
けっこうあると思う
■3組
後ろの窓ガラスには
昨日つけた5ミリほどの傷がある
■保健室
校内でいちばん
白の似合わない世界
■春
くしゃみをすると形が変わる
万華鏡のような木漏れ日がある
■青
朝と自分の
反応式によって生成する色
■空
それはまるで
紫陽花の花言葉
■屋上
駆け抜けてしまえないのが
いつだってもどかしい場所
■夏
壊れたヘッドフォンから
潮騒が聴こえるとき
■サヨナラ
また会えると信じられるときだけ
目を開けて言う、サヨナラ