結婚してよかった、とか言ったことない
吉田ぐんじょう
「林檎ってちょっと女に似てるから歯を立てるときぞくっとするね。」
夕暮れに秋刀魚さばいてみるのですふと血が見たくなりましたので
夜遅い夫の帰りを待ちながら深く深く爪を切るわたし
「わたしたちむかし銀河にいたよね」と言って夫の両眼を覗く
こっそりと夜キッチンで肉を焼き食べる夫のうしろすがたは
エムアンドエムズの青いやつばかり食べる、わたしは青くなりたい
アパートの部屋に深夜が満ちてゆく君もわたしも影絵になって
君は死ぬおそらくわたしより先にそうおもいつつ抱かれたりする
「愛してる」とかそんなことよりも今日、ゆうはん何にするかが大事
食卓をととのえ座るわたしたちまだ家族ごっこしてるつもりで