ナスターシャ/Nasturtium
月乃助

手にあまる
廃屋の残照
すぼまり 壁のない木の間で
林檎の古木は やせて
皺寄せた彩雲にのばされた からまる腕

実生の木 は、
今 ほろほろと 終わりを迎える
小さな青い果実を せいいっぱい 生み出しながら
いくほどの残された生気を 与えているのか

おどける
おろかな駒鳥たちは その酸味の意味を解せず
楽しみ さえずり止まない

でも、知ってしまった 消え逝くものの美しさ
に、心をいため
自らの 優しさがゆえに とまどう
きみは
もう林檎に 手をのばせない

だから、
木の下にひろがり 
秋をちぎった 午后ごご
ナスターシャの花を口にする 
ひとつ ひとつ
鹹味をペッパーの
あふれ出す オレンジの色に さぐり
一つになって、染まり始める

その味は、美しく 林檎を支えてきた
等価の いのち

きみの心にせまる… 悲しく
からまる 蔦の
そのひろがりに
動きをやめ

食べつくすまで 藁のように
雑草の生茂る においの中で
ただ、きみ を 
ナスターシャの花は、おとなへいざない
美しさをあたえる

僕は、そんなきみをしずかにみつめ
 
時の 行きつく先に

わすれられぬほど きつく だきしめるだけ


            




自由詩 ナスターシャ/Nasturtium Copyright 月乃助 2009-09-14 01:53:37
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