……とある蛙

砂漠にぽつんと

壁がある。
黒い壁がある。
大きな黒い壁がある。

その前でぶつぶつ呟いている男が一人。
終日ぶつぶつ呟いている。
男の言葉は聞き取れない。
ぶつぶつぶつぶつ呟いている。

そっちには何があるのぉ。
壁の前、大声で女が叫ぶ
何があるのか女は叫ぶ。
大きな声で叫び続ける。

それを遠巻きに
たくさんの人間が見ている。
見物人と一緒に
遠巻きに自分がいる。

突然、男が壁に向かって
ハンマーを打ち下ろす。
壁はなかなか壊れない。
男はあきらめハンマーを投げ出す。

ハンマーに壁があたって
カーンという音
ハンマーは自分の意志で壁にあたっている。
ハンマーが停止し、壁が蠢きはじめる。

壁は蠢き動き出し
壁の中に男が取り込まれ
壁の中に女が取り込まれ
壁の中にハンマーが取り込まれ
壁の中に僕が取り込まれ
壁の中に見物人が取り込まれ
壁の中に砂漠が取り込まれ
壁の中に壁が取り込まれ

世界は一点の黒い染みになって
僕の心が潰された。


自由詩Copyright ……とある蛙 2009-09-13 10:49:03
notebook Home 戻る