「人形の猫」
月乃助
ふざけてるニャン
逃げ出したシャムが見上げる 四角いそらの路地裏に
もこもこ綿菓子ぐもは、午後のにわか雨のふる
おおきな雨粒は、天のしうち
だれもが 足をはやめる わらわの水の街
なのに、足音をかえず ゆっくりと
ひと波のサーフィンさながら つよがってみる
昨日までのひっかききずの思いを あらいながして歩めば
それで気がすむのなら 気持ちよいほどにぬれ
まだ今日にはりついてくる 消せないしみあと
パンプスには くしゅくしゅの
ふるい よごれたままの水たまり
平気な顔で にくまれぐちに
振り向くだれもの 声もきにせず
こころにさえも とめおかない
あゆみゆく あたたかな雨のなか
やけなんかじゃない 人形の街
ひとりこの時さえも わすれたように
雨はめぐみ の そのぬくもりをだきしめる
まだ生き抜いていく
じゆうを爪とるノラのように
尾をたてて 立ち去る煉瓦の壁
旧い街かど