夕暮れ、窓からやよいがシャボン玉を吹くと
tiki
夕暮れ、
窓から
やよいがシャボン玉を吹くと
リーマンや客引きやパチ屋が足をとめて
時々この辺をうろついているドラ猫みたいな顔した「上海ラバー」のママと
自分の顔を忘れて蟷螂をつまもうと「北海料理ゆきげしき」の看板に手を伸ばした俺と
階段から統括の怒声
夕暮れ、
窓から
やよいがシャボン玉を吹くと
板長からレモンカットを躾けられた夏が
俺のワイシャツの中のタンクトップの下に宿っている
板長から躾けられたレモンカットの夏は
背を丸めてヤバげな咳をする板長を見ながら黙々とレモンを切っている
夕暮れ、
窓から
やよいがシャボン玉を吹くと
顔見知りの客引きがまた一人消えて
また一人と顔見知りになる
インカムに飛び交う冗談の先行投資は
不機嫌な夜を払い下げているかのよう
夕暮れ、
窓から
やよいがシャボン玉を吹くと
手当たりしだいにグラスを叩き割りたい
夕暮れ、
窓から
やよいがシャボン玉を吹くと
待機席から離れた女王は
電話に口汚い罵声をあびせている
かつての彼女の白馬の王子は
一週間前に部屋を追われて路頭に迷っているらしい
夕暮れ、
窓から
やよいがシャボン玉を吹くと
おじじが
えっちら
おっちら
通りから
やってきて
ありがちなビラを通行人にばら撒く俺の前で
額の汗を拭い
ショットバーへと続く階段を
ゆっくり
酔客然として
あがって
扉に消える
深夜
女の子達と客を見送る俺の前で
階段をマスターの顔で降りてくる
夕暮れ、
窓から
やよいがシャボン玉を吹くと
私服かと疑いながら客を引く
声なんてかけなかったさ、鞄が使い込まれてないんだよ、と
居酒屋のシャツをきた少女の逞しい腕を見ながら
偉そうに、得意そうに語る
夕暮れ、
窓から
やよいがシャボン玉を吹くと
やよいがヤリマンとか
どうでもいいことに思える
夕暮れ、
窓から
やよいがシャボン玉を吹くと
久しぶりに言葉を選んで
綴りたくなった