靴のみずおと
月乃助

ひそめた枝に想いを隠せば
揺らぐ月あかりを帯にまとう
記憶をぬぐいおとす 黒いみずうみは、
深奥の靜かな湖畔から 寂々行きつくこのさきに 
こわされてしまう わたしの予感のする

無言しじまな水は物思いに口をつぐみ
人の誰もこない 森の海は、
魚たちもみな眠りにつく こよい
湖心に問う あなたの他に
どこにも 行き着くところなど ないのです
みずうみに ちからの限り靴をなげさった 夏の闇

靴の
波紋は 後悔を押しやる響きが、森の住人たちをふるわす
もう帰れないわよ、と啼いた 夜を裂く川蝉の哂いごえ
そうでなければ、
森の獣たちの あざけりの闇からの呻き

逢瀬は、
裸足に 懺悔のいばらをふむ

ぬぎすてる すべてを 音を立てるように
白い肌に立つ 湖畔の人影は、
おもちゃのような遊び心を確かめた 月の明かり
愛している と あなたがうそぶこうとも
あともどりなど 許さない
閉じられぬ 不意にやってきた夜の 
二人だけのはじまり


自由詩 靴のみずおと Copyright 月乃助 2009-09-11 01:21:03
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