向背
百瀬朝子
もしもなんて
所詮どこにもない
ここに生きている事実はくつがえらない
わたしたちは観念して謳歌するしかないのです
疑いも醜い感情も溶かして
夢の軋む音に耳を澄ませて
わたしを引き止める愛しい手を
ほどいて進もう
この手で選んだ証明
幸福が輪郭をあらわす
誰も傷つかないように振舞っても
偽善だって言われるくらいなら
悪い人間になりたい
正しさなんてわからない
わたしが選んできたひとつひとつは
本当に心の底からほしいものだったか
たとえ正しかったとしても
選べなかったものたちの方が
大切だったんじゃないか
そんな気がして前に進めないんだ
愛しい手がわたしを引き止める
父さんが怒号する
母さんが背を向ける
わたしが選ぶ道は正しくないのか
(わからない)
(わからない)
どうして、わたしは苦しい
どうして、わたしは傷ついている
あきらめることで許されるのなら
引き止める愛しい手に則って
選ぶ道を破棄するべきか
しかしそんなのはただの甘えだ
甘えは心地よくて楽だけど
心を腐敗させていく
腐臭に後悔してもあとの祭り
光は遠くなる
わたしは愛されている
なのに寂しい
苦しくなる
輪郭がゆがむ
愛しい手は誰のために引き止めるのか
わたしのためか
あなたのためか
もしもの未来のためなのか
愛しい手はこの首を絞め上げる
誰の何のためにしろ
応援することができないのなら
今すぐその手をおろして見物しなさい
人の歩む道は険しいのです
一時の反対なんて押し切って
思うままに進めばいいのです
遙かな道は木漏れ日に包まれて
果てから降り注ぐ光を漏らしている
人はそれを希望と名づけ
一握りの真実と
湧き上がる勇気で
指針を強化し
たどり着く光を
導き出すのです
ゆがんだ輪郭が結晶になる
引き止める愛しいその手を
やさしくほどいて
選んだ道を生くのです
咎められたとしても
背負う罪は生まれない
思うままに進みなさい
思うままに進めばいいのです