通学路
百瀬朝子

小学校と家との間
決められた道順が忌まわしくて
通学路の距離は
私の家がクラスで一番長かった
私の通学路は、
ひとりぼっちの道が長い
道のりは木陰が多く薄暗い
ざわざわ揺れる木々の葉音
お化けが似合いそうな不気味さ
晴れの日だって湿気を含んでいた
私の(ゆううつ)を膨らます
   (それは、特別の友だちがいないとか/ひとりぼっちの机と椅子か
    らみじめが滲んできていることとか、その程度の抵抗でしかない
    のだけれども、小学生にとっては日常のすべて、南から陽の射す
    あの正方形の教室が)
いやよいやよと
登校を拒んだあの日
ベソかく私を
母は許さない
登校するまで許さない
顔面をぐしゃぐしゃにして
大声で泣き喚いた
私の弱さを認めてほしい
学校に行く意味があるなんて
わからないまま
あの通学路をとぼとぼ歩み
決められた席に座って
煮える苦痛と羞恥を
辛抱することに
どれほどの
意味が
あると
いうのか
わからないまま
母に許されたい私がいる
私はベソを拭いながら、
中学生の私ならむき出しの反抗心で「クソババ」と罵倒したろう
高校生の私なら部屋に引きこもるかよその町へ出ただろう
小学生の私は玄関の重たいドアを押し開ける
太陽光が私の(ゆううつ)を照らし出す
   (私は子どもらしくない子どもになった。私は悪魔の子でしょう
    か。担任の先生は、何を考えているのかわからないと畏れた。私
    は普通の/ただの子どもです。どうして離れたところから、何を
    考えているのかわからないと言っているの。先生もクラスメイト
    も、みんな、真っ暗な穴ぼこだった)
小さな足で通学路を踏みしめる
頭に石を投げつけられた
傷を手で触ったら血がついた
私はあの通学路が嫌いだった
あの通学路をやぶることを
唯一の抵抗にして
私は、
私の(ゆううつ)をわずか晴らしていた
   (頭にあたったあの石は、穴に投げ込まれただけだったのだろう。
    きっと私も穴ぼこだった。真っ暗な)


自由詩 通学路 Copyright 百瀬朝子 2009-09-08 12:03:25
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