ひとりの・・・
ふるる

ひとりのおおかしぎが
海を渡ってきたのを
見ましたか?

それはどんなふうだったでしょうか
せなかを丸めて
いつものように
口もきかずに
それでいてたくさんのことを
瞳で語り
そんなふうだったでしょうか

ある日
ひとりのおおかしぎは
台風をペットにして帰ってきたのですが
案の定みなの怒りをかいました
なぜみなが怒るのかまったく
分からなかったそうなのですよ

夫婦のおおかしぎは
お互いを見つめ合うのに飽きてしまって
やっぱりひとりになったということでした

秋と呼ばれる季節がまたやってまいりました
そよそよとニレのこずえに風が吹き
おおかしぎが帰ってきたことを
知らせますが
どこまでも透明なそれは
あなたのすぐ隣にいるのに
あなたはどうしてもまだ
気づかないふりを
続けるつもりなのだ
ということでした

去年も
今年も
来年も
あなたはきっとまた
ひとりのおおかしぎが
海を渡ってくるのを
見るとはなしに
まったく気づきもせずに
見てしまうのでしょう

胸に小さな風が吹いても
それをさびしさだと勘違いするのでしょう
それは
まったくの自由なのですが


自由詩 ひとりの・・・ Copyright ふるる 2009-09-07 20:00:17
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