少女B
山中 烏流





彼女はブランコがお好き

路地裏に佇む溜まり風や
お向かいさんの飼い猫に
思いを馳せている、毎日



思いついた恥ずかしい台詞を
口癖のように好き勝手呟いて

「夜の街で散歩でもいかが」

彼女は常に空想と遊びながら
行き帰りの自転車を走らせる
誰も通わない高架下の小道で
まるで他の誰かを探すように
大声を張り上げて歌っている





布団の中の寒さは
夏に被る毛布でも
消し去れはしない

わざとらしい笑みで
彼女は一日を過ごし

味すら思い出せないでいる
いつかの煙草を吸う真似を

鏡の前で、ひたすら
繰り返している日々



制服のスカートのひだが
勝手に歴史を刻みだして
そろそろ絵の具の汚れに
無視をしてはいられない

昔より窮屈になった、と叫んだら
少しくらい、何か変わるだろうか

足の爪を切らないままで
親指の位置に空いた穴を
私以外誰も知らない生活






夢は本に埋もれること

笑って話した彼女は
お向かいさんの猫に
相当嫌われたらしく
最近では近づく度に
逃げてしまうらしい

「あんな猫死んでしまえばいい」

火傷の跡が目立つ彼女の手首は
色白の流行る中に在る誰よりも

美しいと信じたい










彼女はブランコがお好き

漕いだら酔ってしまうというのに

それでも、彼女はブランコが

好きなのだという










自由詩 少女B Copyright 山中 烏流 2009-09-07 01:30:02
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