なつのしがい
仲本いすら
表面張力のまほう、
いつの日にか飛び立てる気がして
いまさっき
世界はひっくり返ってしまった
*
消火器を撒き散らした日のこと。
黒板の角にはいつだって
誰かの告白の残骸が残っていて
最後の日を迎えたときも
甲子園に行けなかったときも
変わらずにそこに名前はあった。
*
沈んでゆくことを、成長と呼ばせた。
羽根の生えたからだは
あまりにも人間ではないなんて
教科書には死ぬほど書いてあって
気が付くこともなく
当たり前みたいに羽根をむしる
ことが出来た僕ら。
痛みを感じてからじゃ
もう跳ぶことすらできない。
*
水面にぼうふらが浮かんでいる。
くねくねと身を捩らせて、腐ってしまわないことを祈っている。
*
世界はひっくり返ってしまった
落ちていく瞬間を
ひとは翼と勘違いしたかも知れない
それでもいい、
そう思えるくらい
今年の夏は暑い。