なつのしがい
仲本いすら

 
表面張力のまほう、
いつの日にか飛び立てる気がして
 
いまさっき
世界はひっくり返ってしまった
 
*
 
消火器を撒き散らした日のこと。
 
黒板の角にはいつだって
誰かの告白の残骸が残っていて
 
最後の日を迎えたときも
 
甲子園に行けなかったときも
 
変わらずにそこに名前はあった。
 
*
 
沈んでゆくことを、成長と呼ばせた。
 
羽根の生えたからだは
あまりにも人間ではないなんて
教科書には死ぬほど書いてあって
 
気が付くこともなく
当たり前みたいに羽根をむしる
ことが出来た僕ら。
 
痛みを感じてからじゃ
もう跳ぶことすらできない。
 
*
 
水面にぼうふらが浮かんでいる。
くねくねと身を捩らせて、腐ってしまわないことを祈っている。
 
*
 
世界はひっくり返ってしまった
 
落ちていく瞬間を
ひとは翼と勘違いしたかも知れない
 
それでもいい、
そう思えるくらい
今年の夏は暑い。
 


自由詩 なつのしがい Copyright 仲本いすら 2009-09-06 05:50:47
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