「踊り狂うカメレオン、松風の如く」
Leaf
徒に真夏の冷気はぎゅうっと胃を握りしめる
丁寧な講釈も机の上の地団駄で全て御破算だ
徐に立ち去る背中に飛び交う怒号も全ては徒徒しく上の空
何の合図か、踊り始めるカメレオン
氷が解け崩れグラスの縁を叩く音が風鈴を彷彿とし余りに心地良い
からん、からん、からん
夏の彩りは神社仏閣の面前で執り行われる居合の演舞に始まり
石段を下ると鳥居の前後を繋ぐ夜店の賑わい
和装男女の風情も今や真新しく、袖衣に見えるは英字の羅列
一際高く壇上にてマイクロフォン片手に汗滾る雄弁な演説も
真夏の終焉に似た祭の風景の一部と化しているのに気付いていない
境内に面して誓う振りする不埒な背広が天に昇った気で見下ろす眼下には
民衆の怒りにも似た熱気が蜃気楼の揺らめきで
壇上の余りの放蕩っぷりに興醒めし、真夏の冷気へと変化する
感情を自在に操ろうなどと図る非道な心音をも凍らし
華やいだ祭事は元来我々のものだ、と言わんばかりに袖引き千切る
煌々と石畳照らす提灯も消された揚句に背広を着たカメレオンを屋台の煙で燻す
胃は縮み脂汗と咳が止まない狼狽七変化
隠れ蓑の完成に向けても捗捗しくない
狸と狐の化かし合いより習得した技巧派も炎天下の風情に折れ始めよう
傍と気づけば、綿飴くれてやろうと裾を引っ張る茶目っ気たっぷりの童子達
其れを舐めるように収束するのだろうか
白く霞み往く朝靄で静まり返った社の境内を囲む松林に栗鼠が戻ってくる頃には
胃袋を撫でる様に冷気も和らぐのだろう
忍び寄る厳冬に備え、ほっぺをぷうっと膨らまし食糧を蓄える栗鼠のようで
夕涼みに暮れる松風の溜まり場には明日への希望が攪拌されている
びゅう、びゅうびゅう
カメレオン宛らに踊ろうか、踊らされようか
いや、饒舌故に破れ、虚しさに踊り狂う彼の涙か
同情を誘う変化振りに聴衆も舌を巻いたのも束の間
保護色に徹したばかりに我をも見失ってゆく
困り果てたカメレオンは遠巻きに逃げ去る
変化の方向性を再度検討する旨を筆に認め土に埋めた
筆の走りを滑らかにしようと筆先を矢鱈舐めまくった所為で舌は伸び収納に蜷局を巻く他なかった
其れ以来、舌の活用は喋る事より蠅を捕える方が有効だと気付いた
気付くだけ幸せというものだ
今年の夏の祭事は終わろうとしていた
彼が背広を脱いだかどうかは誰も知らない
知らなくていいほど廃れるこの世界だ
とどの詰まり、腐った性根は容易く治癒しない
今年も境内を囲む夏祭りの冷気は松林を清く取り囲んでは如何わしく側扁し、凡てを曝け出し炙り出す
嗚呼、やけに風紋が綺麗だ