三越の木馬
月乃助
ひるがえす スカートのすそ
小さな手にふれる空の 麦藁帽子の屋上に
木馬の 陽に照らされた背をさらし
夏が焼かれ 逝く、
都心に生まれ育つ/育った
故郷という 基点を持つことのない親と子
おそろいにシャボンの浮き立つ 水たま模様のワンピースで、
公園に行くように 近接に降り立つ R階
はてなく あてもなく広がる
模型のような街からは、山河の想い
単色の起伏の厚い層をなし
走り抜ける
蹂躙する高架の道のあやとる循環
TOkyOのビルの穂波を うす笑う、
川のせせらぎは、高速を行きかう車のにぶき 耳鳴り
幾重ものビルは、ガラスの山色を谷間にふきあげる 風の音
セミの鳴くコンクリートの壁の 影たち
すべてを見つめる 夏休みの終わりという
持て余す八月
細い肩紐の小さな背は、
おもちゃ売り場の やんちゃに 喧騒を駆け抜け
エスカレーターの滝をさかのぼる ミニ・ギャング
すべては、帰結する屋上に
焦点をあわせて 木馬を目指す
弧を描く足の その太い首につかまり 振り落とす
陽光に暑さと午后の眠気にうずくまる
短くちぢまりきった 影
木馬を揺らす母の横顔は、
若く美しいまま
いつになっても 消え去らない
その背に大きくなった子は 空を駆け去り、
ビルの地平線に 海を 越える
辿り着いた地から
わたしの知るよしもない
母の誕生した時という 夢想を
心によびさまし 送りかえす
いつまでも ひるがえり
変らずに まるく環を描くワンピースの
焦がされる屋上に 木馬を駆らしてきた 母と子の
いまだに
揺れる二人の軌跡が、