空耳の夜
伊月りさ

深夜、裸、横たわったまま
きみに電話をかけられるので
わたしは科学に感謝するが
その超軽量・収載辞書数世界一の
電子辞書は捨てなさい
わたしは高度を欲しない
ベル音は
ベルが発明した瞬間からずっとベル
ベルが発明した
ベルが鳴って
ベルが鳴って
きみはわたしを確認して
二週間ぶんの思いを話そうと
話法の巧緻を追求する
この瞬時に構築された
装飾をわたしは欲しない
それが舌先に届く前に
きみは努力をするべきた
順番に、そう、まなざしを
ゆっくりと、そう、くちづけを
そう、公用語が無い場合と同じ振る舞いを
コンビニエンスを破壊して
インテリジェンスを放逐して
わたしを抱きしめる努力をするべきだ

日毎思っているなんて
きみは到底知らないだろう
深夜、裸、横たわったままでは
南であっても寒いのに
肩も、背中も、白い太腿も
きみの体温を待っているのに
ベルが鳴って
ベルが鳴って
これが
空耳ならばいいけれど
空耳であっても構わない
ただ、この耳朶が爛れるほどの
熱い吐息を欲している


自由詩 空耳の夜 Copyright 伊月りさ 2009-09-02 21:11:25
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