空耳の夜
伊月りさ
深夜、裸、横たわったまま
きみに電話をかけられるので
わたしは科学に感謝するが
その超軽量・収載辞書数世界一の
電子辞書は捨てなさい
わたしは高度を欲しない
ベル音は
ベルが発明した瞬間からずっとベル
ベルが発明した
ベルが鳴って
ベルが鳴って
きみはわたしを確認して
二週間ぶんの思いを話そうと
話法の巧緻を追求する
この瞬時に構築された
装飾をわたしは欲しない
それが舌先に届く前に
きみは努力をするべきた
順番に、そう、まなざしを
ゆっくりと、そう、くちづけを
そう、公用語が無い場合と同じ振る舞いを
コンビニエンスを破壊して
インテリジェンスを放逐して
わたしを抱きしめる努力をするべきだ
と
日毎思っているなんて
きみは到底知らないだろう
深夜、裸、横たわったままでは
南であっても寒いのに
肩も、背中も、白い太腿も
きみの体温を待っているのに
ベルが鳴って
ベルが鳴って
これが
空耳ならばいいけれど
空耳であっても構わない
ただ、この耳朶が爛れるほどの
熱い吐息を欲している