裸身
吉原 麻

チェンバロの音を想像して
ヴァイオリンを持つと
ソプラノサックスの音が出る

そう思ったのはついさっき
家庭教師先で中学2年生の女の子に
数学を教えているときでした

誰から聞いたんだっけ
誰が言ってたんだっけ
どうして思ったんだろ

そうかあれはあなただ
凛としてあなただったのだ
あなただけだったのだ

ヴァイオリンを首にくわえて
世界で一番下にあるものを見る眼で
赤い私を凝視していた

人より一本少ない指を黒と白の鍵盤に行き渡らせ
歪な音を奏でるたびに
涙を流した

なぜかあなただったのだ
漠然とあなただったのだ
いかにしてもあなただったのだ

ご飯粒は虫の卵だと言って決して白米を食べず
蝋燭は照らす為ではなく辱める為にあるのだと言い
封筒は知らせる為ではなく別れる為にあると言う

あなたはなぜ
なぜなの


未詩・独白 裸身 Copyright 吉原 麻 2004-09-10 20:54:40
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