ちょっとだけみかたをかえれば、てきにも、みかたにもなる、とうきょうえき。
ひとなつ

まちは自殺にみちあふれている

例えば、東京駅

階段は一つ一つが絶妙にとんがっているから

僕にはその角に頭を打ちつけるくらいしか使い道が分からなかった。

そして、ホームもまた然り。ハシラは一本一本が絶妙にとんがっているから

僕にはその角に頭を打ちつけるくらいしか使い道が分からなかった。
(階段に比べればちょっとだけ打ちつけにくかったけれど。)

そして、線路もまた然り。ブーといって駅に入ってくる電車は角が絶妙にとんがっているから

僕にはその角に頭を打ちつけるくらいしか使い道が分からなかった。
(全力でジャンプをしないといけなかったけれど。)

「でもね、ちょっとだけみかたをかえれば、それは、君のみかたになってくれるんだよ。」

ホームから降りて、線路で石ころを蹴っていた僕に彼はどこからともなく話しかけてきた。

あ、カヲルくんじゃないか。ひさしぶり

僕がのんきにそう答えると、彼は「危ない、危ない」と半笑いで警告を発した。

ちょっと顔をあげてすぐに気がついたことだが

僕が蹴っていた一本のレールに乗っかった電車はむこうから物凄い勢いで走って来ていたのだ。

「大丈夫。電車は止まるから、線路の端まで走れ、走れ」

彼の助言どおり、僕は走った。

“シカに注意”の標識のシカのごとく走った。

僕をさんざん追い回した挙句、電車はようやく止まった。

ふう、危なかったー

不思議なことに「危なかった」と言える自分がいた。

荒げた息に乳酸の味がした、

いまままでの運動不足が体から抜けていくような、さわやかな味だ。

僕が「明日から寝る前にマンションの階段を上り下りとかして少しは運動しよ」

などと思っていたところに

またあの声がそよ風のごとく舞い込んだ。

「そうさ、その調子!君がみかたをかえれば、
階段は登っていけるし、
ハシラはこうして寄りかかるのに便利だし、
電車はこうして乗ることも出来るのさ。」

カクばったハシラに寄りかかっていた彼は
最後にそれだけ告げて
その快速電車に乗って、
どこかへ行ってしまうのだった。

でも確かに、彼の言うとおりだった

ちょっとだけ見かたを変えれば、敵にも、味方にもなる、この東京駅。

はやく彼に追いつかなければ。

僕は線路を走りどこまでもその電車を追いかけていった。


湘南新宿ライン



自由詩 ちょっとだけみかたをかえれば、てきにも、みかたにもなる、とうきょうえき。 Copyright ひとなつ 2009-09-02 02:18:04
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