霧穂
木立 悟







草から分かれた空色に
虫は染まり 身じろぎもせず
夜明けの光の逆を見ている


曇りの上の曇りから
水の底の骸へと
緑はさらに緑に降りつむ


闇のなかに闇の譜があり
長大な無言を綴っている
光は 手のひらに足りない


苦しさがひとつ増した真夜中
物音のしない未来のほうから
羽のかたちがやって来ては去る


一度眠り 一度目覚める
無はどこまでも匂っている
一度途切れたらはじまらぬもの


枝が枝にしたたり
音だけをただ追いやっている
ふせたままの 霧のまぶた


水と蜘蛛の巣
夜にむずかる羽の喉
高く高くまばたき合う火


雨は無く
雨の光が聞こえ
こぼす手のひらは冷え


夜へ向かう樹を
川をなぞる霧を見ている
抱くように抱かれるかたちを見ている


空から空へ
挿し入れられる手
湿った光の柱を巡る



















自由詩 霧穂 Copyright 木立 悟 2009-09-01 22:52:19
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