集中豪雨
ホロウ・シカエルボク
連弾のような雨を
見上げてお前は呟いた
それがどんな言葉であるか
俺は確かめはしなかった
散々な思いのあと
不意に開いた排水溝に
吸い込まれてしまうような気分
はぐれてしまうことはとうに
とうに、わかっていたのだ
光学的なデザインのビルが
雨粒に虹の色をつける
まるでおしつけがましいメルヘン
べつに綺麗な心なんて
大事に抱えていたいわけじゃないさ
嵐の季節を
豪雨の真夜中を
懸命にくぐるだけなんだ
目を閉じたのはなにも見るまいという気持ちかい
それとも
なにかひとつだけを
見ようとしたのかい
灯りを落としたベーカリー・ストアーに
ささやかな毎日のぬくもりは見当たらず
トチ狂った無灯火の原付が
点滅信号を強引に駆け抜けていく、その飛沫が
誰かの傷を裂いてるみたいに見えた
かなしいなんて言うな
俺たちはやれるだけのことはやってきたんだから
まだ頬がふくよかな頃の
ミックジャガーを真似してそう言ってみたけれど
やつほどにうまく、声は濁らなかった
総合病院が近いこのあたりじゃ
ひっきりなしに救急車が駆け抜ける
雨の中にひかる赤を見るたび
お前は胸の前で手のひらをかたく握った
「悲鳴みたいに聞こえていやだ」と
むかし話したサイレンに眉をひそめた
あるいは
俺たちという現象の死を
けたたましさの中にお前は見つけてしまったのか
雨がやむころには
答えが出るだろう
雨がやむ頃には
行きつくところに流れ着くだろう
一度よろめいてしまったら流れに飲まれるのみさ
俺はいつだって
お前の手を取るつもりでいたんだぜ
車の流れが途切れたとき
いっそうの雨が降り注いだ
お前は叫んだ
俺は
聞こうとはしなかった