「忍の女」(くのいち)
月乃助
―― 小半時
木端に
雨足はやまず 足音を
荒げたまま
やっと 思い立ち
鐺で突く と 動く
まだ 息があるのか、
後世からもどってきたのか、
裸足の あらわな白い脚
長い黒髪は、狐狼の尾
濡れひろがる
はりつく着物が 重そうに 雨音をすう
媚薬を口にし 忍ぶ
わが身を殺して生きる術をしる おんなの横たわる
「儂は、卑怯でも 不信心でもないが
姑息におんなをもとめることも ない
なれば…」
ためらい また、思い 驟雨に打たれ たちまどう
雨音に ようよう 心をきめれば
迷うこともない
かたびらに
牡丹のうす衣 かるい体 を 肩にかつぎ
足にへばりつく 黒白の昼の影
しつらえられた
魔窟から おんなを 連れ出す算段に
夏の積乱雲の
兜をならし
雷の ときに 稲妻の翔ける
篠突く雨の中を のっしのっし 猪のように
あゆみだす 武者
おんなの 雪の肌を、
やわらかな
たわわな 乳房を ゆめみながら…