「忍の女」(くのいち)
月乃助

―― 小半時

木端に
雨足はやまず 足音を
荒げたまま

やっと 思い立ち
こじりで突く と 動く
まだ 息があるのか、
後世ごせからもどってきたのか、
裸足の あらわな白い脚

長い黒髪は、狐狼の尾 
濡れひろがる
はりつく着物が 重そうに 雨音をすう
媚薬を口にし 忍ぶ
わが身を殺して生きる術をしる おんなの横たわる 

わしは、卑怯でも 不信心でもないが
姑息におんなをもとめることも ない
なれば…」

ためらい また、思い 驟雨に打たれ たちまどう

雨音に ようよう 心をきめれば
迷うこともない
かたびらに
牡丹のうす衣 かるい体 を 肩にかつぎ
足にへばりつく 黒白こくびゃくの昼の影
しつらえられた
魔窟から おんなを 連れ出す算段に
夏の積乱雲の
兜をならし
雷の ときに 稲妻の翔ける 

篠突く雨の中を のっしのっし 猪のように
あゆみだす 武者 

おんなの 雪の肌を、
やわらかな
たわわな 乳房を ゆめみながら…



自由詩 「忍の女」(くのいち) Copyright 月乃助 2009-08-31 14:37:21
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