ふた
昼寝ヒルズ

ふたをひとつ
君と共有している

煮物をする時はもちろん
寝る時も旅をする時も
ふたはかかせない

あのことで
僕が蝉と抱き合って泣いたことも
君が公園で白い花を食べつくしたことも
思い出よりも遠いものにしてくれる


ある日
ふたの一部が壊れてしまった
注文をしようにも名前がわからない
隣人にさりげなく言うと
すぐにわかってくれて
自宅の合いそうなものを
いくつか持ってきた

うっかりしていたが
こういうことが一番困る

うちのものとは
合うはずがないと思っていたが
すべてが怖いほど
ぴったりだった

それからそのふたは使っていない
いや、そのふたを見かけない


新しいふたがひとつ
今、鍋の上にのっている
おいしい煮物をつくるために
ただそのためだけに
ふたが置かれている

のだろうか




自由詩 ふた Copyright 昼寝ヒルズ 2009-08-28 14:42:42
notebook Home 戻る