発覚〜hack and eat〜
伊月りさ

きみの奥にいる四人目を
億千万から探る夜

朝は遠く
遠くで始まるバイク音は
億千万に投函している
億千万の活字のなかに
それは書かれているのだろうか

獏の逸話が本当ならば
とびきり腹をすかしておいで
ファンタジックな夢とともに
この憶測を完食しなさい



そうして、わたしは捩れたからだを投げ出しました。

わたしは毎晩こわい思いをする。エレベーターに閉じ込められ、そのエレベーターは際限なく上昇し続ける。たくさんの民族に追われ、逃げのびた視界の端で、幼馴染みが耳をちぎられる。
わたしはいやな食べ物なのだ。
たとえば、夢に味があるのだとしたら。未熟と完熟のような区分があるのだとしたら。醒めたことが悔やまれるほど幸福な夢が、舌の上で蕩けて甘く香って笑みをもたらすのだとしたら。こわい夢は美味しくない、きっと、口に含んだ途端に胃袋が痙攣して泣きながら嘔吐する。
わたしはいやな食べ物なのだ。
しかし今、獏はひるまない。
口まわりをべたべたにして、記憶の化合物を食らう。
食らっています、幼い戦慄を、食らっています、繰り返す恐怖を。
これはつまり、かれらにとって肝心なのはその夢がわたしから離れ、ただ純然たる
夢であることなのでしょうか。



臆病なきみは
食われるわたしに
安心してその目を閉じて

眠れぬわたしは
きみの廃屋に
身を置くひとを確かめた

バイク音
ハイオク満タン・フルスピードで
このひとを轢いてしまえよ
と、強くここから送られる
赤信号が点滅して、
点滅して、

照らされる獏の
濡れた鼻孔から洩れる喘には
腐りかけたわたしの嫉妬のにおいがする

食らっています
わたし、引き摺り出した四人目を
食らっています
引き摺り出した四人目を食らうわたしを
完食しなさい
この際限のない憶測を

そうしてわたしを救い出して
ここに硬質な光をさして


自由詩 発覚〜hack and eat〜 Copyright 伊月りさ 2009-08-27 02:25:14
notebook Home