通知書
たもつ

 

電話回線の中をひとり歩く
途中、水溜りのような海がある
工事のためしばらく混線する恐れがあります、と
電話会社から通知書が届いたばかりだった
仕方なく簡単な水遊びをする
ふやけた体がどことなく透きとおって
薄汚れて見える
脱水症状を起こしたのだろうか
犬がぐったりと軟らかな様子で横たわっている
近くに落ちていた手押し車に乗せて
再び歩き始める
声を聞きたい人がいた
聞いてどうするわけでもないけれど
たぶん、どうもしないと思う
目的の電話番号に着くと
聞いたことの無い声で
知らない名前を告げられた
一言お詫びを述べて帰ることにした
帰り際、犬のために少しの水と
魚の練物製品をいただく
木陰の涼しい場所で犬と別れた
それからしばらくの間は受話器を取ると
波音と犬の鳴き声が微かに聞こえたけれど
工事が終了した旨の通知が届き
必要のないものばかりが後に残った
 
 


自由詩 通知書 Copyright たもつ 2009-08-26 17:34:06
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