通知書
たもつ
電話回線の中をひとり歩く
途中、水溜りのような海がある
工事のためしばらく混線する恐れがあります、と
電話会社から通知書が届いたばかりだった
仕方なく簡単な水遊びをする
ふやけた体がどことなく透きとおって
薄汚れて見える
脱水症状を起こしたのだろうか
犬がぐったりと軟らかな様子で横たわっている
近くに落ちていた手押し車に乗せて
再び歩き始める
声を聞きたい人がいた
聞いてどうするわけでもないけれど
たぶん、どうもしないと思う
目的の電話番号に着くと
聞いたことの無い声で
知らない名前を告げられた
一言お詫びを述べて帰ることにした
帰り際、犬のために少しの水と
魚の練物製品をいただく
木陰の涼しい場所で犬と別れた
それからしばらくの間は受話器を取ると
波音と犬の鳴き声が微かに聞こえたけれど
工事が終了した旨の通知が届き
必要のないものばかりが後に残った