アリクイの一生
かいぶつ

パルとニュウはあやとり専門学校で出会った。
二人は毎日仲良く電車に乗って家に帰る。
MP3プレイヤーのイヤホンを二人で耳に片方ずつ着け、
パンクバンド「五体満足」のファーストアルバムを聞きながら。

二人に会話は要らない。
電車に揺られ音楽に浸るこの時間が
二人を優しく包むから。

二人はけして美男美女ではなく、
頭が良い訳でもない。
裕福でもなく、
あやとりも上手ではない。

MP3プレイヤーのTIMEが
35:46に差し掛かったとき、
パルはニュウに別れを告げ電車を降りる。

「マタアシタ。」
「バイバイ。」
「アッ、ボウシ忘レテルヨ。」
「アリガトウ。」

そしてニュウはパルがつけていた
もう片方のイヤホンを着け、
アルバムのラストナンバー
「アリクイの一生」を独りで聞く。

ニュウはこの曲が嫌いだ。
何故だかとても悲しく聞こえるから。
燃える夕日がとても恐ろしく感じるから。
でもイヤホンを外してしまったら
聞きたくないことまで聞こえてきてしまいそうで、
つい最後まで聞いてしまうのだ。

どんなに幸せだろう。
このアルバムを二人で一緒に聞き終えることができたら。
でもそれは無理だった。
二人はとても若く、無知だから。
二人はとても臆病だから。
でも二人はそれだけで幸せだった。
 
ニュウはアルバムを聞き終える。
パルの顔を思い浮かべる。
 
悲しくなる。
ただ、悲しくなる。


自由詩 アリクイの一生 Copyright かいぶつ 2009-08-26 01:01:12
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