ゴースト(無月野青馬)

淡々と行く夕方の通学路
ガマガエルが鳴いている
少年の胸には外れた左手
少し折れ曲がっているけれど
大切な左手


昔から、クラスの中で浮きまくりの少年
授業以外で口を開く事はない
友達と呼べる相手も1人もいない
寂しいと思っていたのも最初だけ
すぐに慣れ、自分の立場からくる不利を許容していた


恋の季節が突然に訪れた夏
少年は心弾んだ
少年は魂を入れ替えた
隼のようになろうと入れ替えた
これは少年の好きなファンタジーゲームでの知恵だった


口下手だから、プリントで作った紙飛行機を気になる女の子に飛ばした
内側にはメッセージ、沢山の愛情表現、それから、隼のマーク
女の子は気付いてくれて、読んでくれて、待ち合わせ場所に来てくれて、優しい挨拶をしてくれて、話をしてくれた
けれど、付き合ってはくれなかった
少年の初恋即失恋


少年はそれから毎晩、枕を濡らした
耳がしおしおになる程


時間は流れていく
つまり5年後
女の子には彼氏が出来ていた
女の子は少年と合っても、もう挨拶を返してはくれない
少年は涙を溜めた目で空を睨み
隼の魂を追放する


外れてから腕に戻らない左手を抱き締めて
少年は今夜も眠る
舌で接合部を舐めてみたり、少し皮を食べてみたり
けれど、
隼の魂を無くして
少年の方針はブレていた

5年後も
淡々と夜道を行く少年
ガマガエルが鳴いている
無意味だとしても
筆箱から
赤マジックを取り出してみる
隼の魂は無い筈なのに
少年は
敏捷に
ガマガエルを摘み上げ
赤マジックで
ガマガエルの血管を、心臓を皮膚の外側から赤く塗る
魂の在処を探し出し
赤く塗りたいと
高校生の少年は思っている


そして
傷心中の少年は
最終的には
ガマガエルの皮膚の外側から
歪な形になってしまったハートマークを追放したい





自由詩Copyright ゴースト(無月野青馬) 2009-08-24 20:19:38
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