「 帰り道 」
椎名
それと気づかせないくらい
ひそやかに雨が降る
フロントガラスに微かな水滴
ワイパーもいらないくらいに
 
夕暮れ時の街は
帰りを急ぐ車がせわしなく
まぶしいヘッドライトの川が流れる
歩道の人影など
目をやる隙もないくらいに
 
しびれるほどに疲れた頭に
飛び込んでくるものは
光の川
一日の残像
麻痺したような腕でハンドルを切る
 
ねえあなた
待っていてくれるかな
灯りをつけて
 
とびきりの笑顔をちょうだい
それが一番の薬
あたたかいぬくもりをちょうだい
それが一番の休息
 
何も語らない雨が
ひそやかにフロントガラスを濡らしている
通り過ぎる景色に
きらめきを添えて
 
 
