稲穂
見崎 光



夏になりきれないままの陽気


心地よさを感じさせる風が流れる度に
何故か懐かしい記憶が駆ける
まるで実りの薄い穂先を満たすよう
年月という重さはまだ
温もりを保てない水の底にあって
語りかけてはくれないけれど


真昼を漂う夏の余韻は短い


のどかな風景に蜻蛉が群れると
肌寒い空気に陽気は反射し
垂れるほどの実を持たない稲穂が光る
いっこうに温まらない水の底で
指折り数えた年月を放てずにいるというのに


日照時間が夏の終わりを刻む


梅雨明けの知らせが届かないまま
祭りの夜をすぎ
線香の香りに包まれたお盆をすぎても
雨は続き陽気はいつも雲の陰
どれほど記憶を辿っても小さな実り
天上に請うように遠くで蝉が鳴いている
もうすぐ秋がくるというのに



金色の野に
紅葉は咲けるのだろうか





携帯写真+詩 稲穂 Copyright 見崎 光 2009-08-23 10:14:02
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