小説『花垣線』
オイタル
花垣線に乗った。
駅長さんを呼んでみたが、
もうずいぶん前から、この駅は無人だった。
乗り換えの駅に到着した。
次の電車が来ないので、
改札を通って、待合室で待った。
強風のため、電車は来ない。
待っていた各駅停車は欠便となった。
友人は、次の各駅を待つといった。
待っている別の友人が気になって、
私は、すぐ後の急行で行くことにした。
眠ってしまった私は、次の駅を乗り過ごした。
気がつくと、闇の中で電車は速度を落としていく。
暗い山の中の駅で電車は止まった。
別の友人、すみません。
私は駅に降りた。
風を避けるもののないプラットホームで、
戻りの電車を待った。
電車はなかなか来ない。
裏手の山は、
暗い塊になって、空を圧迫している。
闇の遠くで鳴る風が、ホームの柱に、傷のような音をたてている。
ホームの反対側では、何人かの男たちが、
コートのポケットに手を突っ込んで、電車を待っている。
ようやく電車がやってきた。
三つの車両の中は、どれも黄色い照明で明るい部屋を作っている。
開いたドアの前で、
ところが先ほどの男たちが何か言い合っている。ちょうどドアのところで。
私は乗り込めない。
別のドアから入ろうとすると
争っていた男の一人が私を呼び止めて、言いがかりを始めた。
電車の車掌が何か言っていたが、
やがて激しい音をたててドアは閉まり、電車は出発してしまった。
電車は
どんどん、出発していく。
わたしは
どんどん乗り遅れていく。
どんどん
乗り遅れていく。