蝶の舞
伊那 果

 夏の灯に魅せられて
 たくさんの蝶や虫たちが
 集まってきた
 蒸し暑いホームで
 営業を終えた若いサラリーマンが
 冷えたアクエリアスを ごくり と飲んだ

  ジイジ ジイジ
  蛍光灯にあたってこげた虫の音が響く

 遠くから電車の灯りが近づいてくる
 サラリーマンと一緒に 蝶たちも乗り込んだ
 夏の灯に魅せられて

 涼しい車内で一息ついたサラリーマンは
 大きなアゲハチョウが
 ひらひらと羽ばたいているのに気づいて
 それからつかの間の眠りに落ちた

 真っ暗な田園地帯を 電車は走る

 あと一往復で 今日の勤務は終わりだ
 駅ごとに乗ったり降りたり
 毎日繰り返されるルーティーン
 車掌は海沿いの夕日を思い出す
 今日はとってもきれいだったなあ

   回送列車の車内の網棚の上で アゲハチョウは夜をこし

 やがて灯が消え
 蒸し暑くなった車内で
 息絶えた

 再び朝の光が車内を包む
 掃除係は見事な模様には目もくれず
 黙々とちりとりにしまいこんだ



自由詩 蝶の舞 Copyright 伊那 果 2009-08-22 23:56:02
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