伊那谷
西天 龍

田植え前の伊那谷は
全ての田に水が張られ
まるで大きな湖のように
風がきらめきになり遥か渡っていく

いなごを追い、桑の実を摘み
駆け回った子供の頃が懐かしい
濃紺から薄墨へ幾重にも幾重にも
連なり南へ消える山々を見つめ
その先を思うこともあった

黄昏になれば
谷の夜空を瞬きながら渡っていくものを
不思議とも思わずただ眺めていた

飛行機はあっけなく
眼下の伊那谷を横切った
恵み深きアルプスの山並みに別れを告げて
ブラインドを下ろす

またこの谷に戻るために
しばらくこの谷を忘れるために


自由詩 伊那谷 Copyright 西天 龍 2009-08-22 08:32:10
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