ストロベリーサリチルジュブナイル
ひとなつ

2000年、夏

小学校最後のこの夏に僕はミイラを作ることを決意した。

その夏は小学1年の時、図書館にあった本で見たロザリア・ロンバルド
というミイラ少女にあこがれて6年目の夏でもあった。

僕は小1のあの頃から、夏になると「今年こそミイラを作る」と宣言していた、が

状態の良いキレイな死体や大量のホルマリン、グリセリン、サリチル酸が用意できなくて

いつも断念していた

しかしその小6の夏には野菜や果物でもミイラが作れる事を知った

偉大なる第一歩だ

それに、この年から自宅のパソコンがネットに繋がった

親父や教師よりずっと強力な味方が付いたわけだ

僕は具体的な作り方を調べる前に、まずデパ地下へ行き

どの野菜がロザリア・ロンバルドに相応しいか慎重に吟味した

しかし、結果は「該当なし」

デパ地下に見たどんな野菜も果物も、彼女のイメージとはかけ離れていたからだ

その日はしょうがなく、製菓コーナーでイチゴ味のチョコボールを買って帰った

それを貪りながら、僕は帰り道でイチゴキョロちゃんを眺めていた

そのとき、ある種のひらめきのように電流めいた何かが頭に走った

ちょっと待てよ!?イチゴってピッタリじゃねえか!!ロザリア!!



僕はその夏、イチゴのミイラを完成させた

今思えば完成度は高かったと思う

ただ、僕のミイラづくりにひとつだけ妥協した点があるとすれば

イチゴが旬ではなかったため、糖度が低いものを使用しなければならなかったことだ

糖度が高いほうがカビに強いことはもとより、
糖度の高い甘いイチゴで作ったというポケモンの能力値的な必然性も、
あの年頃の僕には重要な気がしたのだ。

それと、もうひとつ引っかかるのは
今思えばあのイチゴは「冷凍もの」だったのかもしれないということだ

もしかすると僕はあの夏、ウォルトディズニーのように既に冷凍保存されたイチゴを、
ミイラに…保存方法を変換しただけだったのかもしれない

秋口のイチゴは「冷凍もの」の輸入が多いという

ということは結局、小学校最後の夏休みに、
僕は永久死体を冷凍庫から棺おけに移しかえただけだったのか…


悔いはミイラのように心残りだ




自由詩 ストロベリーサリチルジュブナイル Copyright ひとなつ 2009-08-22 04:39:15
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