わたしのうた
あ。
届かないと思っていた扉の取っ手は
いつの間にか腰の位置になっていた
背が伸びて視野が広がる
遮っていたものに追いつき追い越し
世界の大きさに少しずつゆびが触れる
もうすっかり大人になって
広がるはやさが衰えても、わたしは
わたし以上でもわたし以下でもなく
足元に咲く花の名前は知らないけれど
その姿を瞳におさめたくてしゃがみこむ
細い黄緑色の茎に蟻が一匹のぼっていて
同じように低い場所から空を見上げる
さっき出来た飛行機雲が色薄くなり
伸びていた線もやわやわとうねっている
何処まで飛んでいったのだろう
線の先を目で追ってみてもわからない
わたしは、
わたし以上でもわたし以下でもないけれど
花が強く色づくように
空がやさしく広がるように
うたうことが出来るなら
うたうことが出来るなら
扉も開くことが出来ると思うんだ