8月の殺人事件
ゆりあ
「ねーvirgin suicidesのどこが好きなの」
「virgin suicidesって名前」
「なまえぇ?へー。じゃあ誰が一番好き」
「次女」
こんな風にお互いが好きな外国の映画について会話することはもう無い
あたしはあの日終電前に帰されたことを思い出す
今年は花火行かなかったな
今日は誰とも会いたくなかったから
何にも見たくなかったから
自分が信じられなかったから
予備校を休んで
他愛の無い映画をいい加減に観て
ベッドで眠った
映画の中の少年少女たちのように私も今日死んでしまおうかなと思いながら
とても優しい、穏やかな気持ちでまどろむ
気が付いたらもう夜で
もそもそと起き出してあの娘のブログをチェックした
花火の写真
その控えめな美しさに思わず泣きそうになった
でもいつものように涙までは出ない
そっか今夏休みなんだ
だから気が狂いそうだったんだ
唐突にもうすぐ夏休みが終わってしまうことを実感し
現実という群青色がゆっくりと世界を埋め尽くす
気が狂いそうな位センチメンタル
せめて君だけは、まだ終わってないの
終わらないで
私の未来に君がいますように
君の未来に私がいますように
止まらないで
一週間後あの娘は頭のおかしい男にレイプされた後刃物で刺されて死んだ
あの娘の部屋には赤い薔薇が飾られていて
殺人現場には花びらがたくさん散りばめられていたと言う
生臭い血の匂い
でもそれが生の香り
憂鬱な生理が来たときの女の香り
ま っ 赤 な 夏 休 み
で も あ の 娘 も 少 し は
死 に た か っ た に 違 い な い
外ではトンボが飛んでいる
私たちはそれを避けながら歩いていく
太陽が、とても眩しい