レモネエド・ジンジヤアエエルのある風景
仲本いすら
きんとひえた。
レモネエド・ジンジヤアエエルのある。(在る)
ブルマステイフみたいな男が、それを出したとき、そのほんの数秒のあいま。
グラスからは、へその緒のようなにおい、がして
くらり、くらりと、しながら。したから。
僕はひとくちもそれに口をつけずに。
レモネエド・ジンジヤアエエルのある。(在る)
そのカフエを出る。でてから。
その、追いかけてくる、
はじまりのにおいから、
にげる。にげるように。
アメ横の魚屋のすきまを、
にげる。にげるように。
棒つきのメロンや、パイナツプルが、
ふらふらと、ただようのは、この場所にきっと
重力がないからだ。だから、パンダもいない。
このまちにはパンダもいない。
白黒つけることもできず、あいまいに、通り過ぎる。通り過ぎた。
生まれたばかりのトンボの群れが前髪にふれる。
垂らしたままの前髪にふれる。
*
走りながら考えること。
このままアスフアルトに顔面から転ぶなら
きっとたくさん血が出て痛いだろうなあということ。
走りながら考えなかったこと。
これからどこへ向かうかということ。
「それから、彼は子宮口をさがした。」
「つくるためでなく、」
「またでてゆくためだ。」
「アイ・シンク・トウー。」
*
きんとひえた。
レモネエド・ジンジヤアエエルのある。(在る)
*
彼から、生きることについて深くはなしを聞いたことはない。
ないのだけれど。
DO BE の呪いだと。そう、うわ言のように語る彼は、
しばらくしてから、もう、きっと、見つけたのだと思う。
羊水のあたたかさ。
ぬめり。
内臓のにおい。
1センチメエトル。
破水。
私が彼の子を宿したと知ったとき。
最初に飲んだのはやはり。
レモネエド・ジンジヤアエエルのある。(在る)
*
ドウ。 ( し ろ 。 )
ビイ。 ( な れ 。 )
*
レモネエド・ジンジヤアエエルのある。(在る)