幼さ
かんな

 いくつもの、
 接がれない
 夕刻のだいだい色を
 ポケットにしまおうとして
 持ちかえれない
 そんな夜は暗闇に目を凝らした

この病棟の窓から見える夜景は
いつもと変わらない
しれっと
つまらない顔をしてみせる
十七歳で発病した
この病もまた
しれっと
わたしの人生を大きく変えたか

 幼さはきっと
 不変と呼べるものには
 出会わなかった

変えた
わけではないと
そろそろわかることができるほどに
歳月が過ぎた
家族と、
家族としていることや
社会と、どこかで繋がることに
あまりにふつうに憧れて
それでいて
反発していた

 幼さは
 夜になれば
 月がゆいいつの嗜好品だった

友人からの見舞い品
立体クリスタルパズルを
病室のベッドライトにかざす
ムーン
月の形をしている
でも何だかバナナみたいだなって
かじったら
月は甘いかもしれない
そう思って
空をあおぐ

 真実に直面した幼さは
 とめどなく泣く赤ん坊のようで
 それは悲しみとは
 ずいぶん違った
 そして喜びとも、いくらか違った

明日と朝は
どちらが先にくるだろう
という単純な問いを、自らに問う
だからきっとこの病のこたえは
その応えにある
そういうものだ
などと勝手なことを考える
白く清潔なベッドカバーに
顔をうずめる

 この、眠りに落ちられず
 迎える朝に拾う
 似たようなだいだい色は
 温度だけがちがう

朝がくると
明日はまた遠のいてしまった
病棟から
明るさをまとった景色を
しれっと眺めながら
昨日の勝手な言い分を
ふり返ったりする
そしてまた
立体クリスタルパズルを手に取ると
今度は
太陽にかざしてみた

 乱反射の、その奥に
 ひっそりと身を隠した
 わたしの、幼さをまた見つけた



自由詩 幼さ Copyright かんな 2009-08-18 23:08:58
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