地上では
夏を散らす風
恋しくて水面をみあげた
なぜかしら
感じたことのないものを
わたしは知ってる
水面には
ひかりの乱舞
銀が背に降り積もり
手のひらの形で鱗をなでる
千切れるように震えるからだを
水の重みで映しとり
さざなみにかえる
わたしの名を呼ぶ声がする
水中をすすむ くもった音が
耳の奥で高温を奏で
紅よりもあかい青で焼く
なぜかしら
これが火だと
わたしは知ってる
水の流れにていねいに
わたしのまるみを伝える
水はわたしを泳ぐ
わたし自身をつくる小さなものたちが
小さな死と小さな生をくりかえし
だんだん入れかわるのを
淀みなくめぐらせながら
ほら あの日のわたしが
すっかりつくりかえられている
なぜかしら
やがて人魚になることを
わたしは知ってる