ガンダムなひと
恋月 ぴの
ガンダムってすげえよな
隣の席で男の子たちが騒いでいた
お台場に展示されている実物大のガンダムを見てきたらしく
それぞれ高揚した面持ちで身振り手振りが忙しい
ガンダムってモビルスーツだったっけ
なかに人が入って操縦して
同じように人が入って操縦するザクってのと戦うんだったよね
連邦軍とジオン軍の戦い
どことなく眼下のターゲットを狙うスマート爆弾の映像にも似て
悲痛の呻き声とか血の匂いを感じられなくて
終戦記念日の8月15日
世界平和の達成を祈る夏空の下
今にも飛び出しそうなガンダムは大勢のファンに囲まれていた
あの時代、死に行く前にお母さんと呟いたらしいけど
アムロもお母さんと呟いてくれるのだろうか
そしてザクを操縦していた無名のパイロットたちも
そう呟いて死んでいったのだろうか
ただ単に戦争反対を唱えるよりも
アムロ、行きます!
そんなひとことで死に行く想いを敢えて肯定してみることから
何かしらはじまるような気もして
道端でもがく死に損ないの蝉一匹さえ救えぬ自分を認める