祈り
たもつ

 
 
薬が切れて震える父を
抱えてベッドに寝かせる
布団のしわなどが気に入らないと眠れないので
抱き起こし、位置を変えてまた寝かせる
そんな作業が延々と続く
父にとって毎日の睡眠とは
戦いにほかならないのだ

父が眠りにつくと
今日はひとりで立ち上がれた、とか
トイレに行けた、とか
母や妻は嬉しそうに話す
でも、みんな知ってる
これ以上症状が良くならないことを

わたしは祈らない
本当の祈りを知らないし
何より祈るべき神様をもたないから
それでも祈りの真似事をしたくなって
困っている人に手を貸したり
小さな虫を逃がしたりする
良い人になりたい
何か神様のようなものが
見ていてくれるかもしれないから

最近父の夢をよく見るようになった
父は夢の中で
時々昔のように元気に歩き回り
時々死んだ
ありがとう
夢の中で元気な姿を再び見せてくれて
ありがとう
死ぬのが夢の中のことだけで
 
 


自由詩 祈り Copyright たもつ 2009-08-17 19:43:17
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