ギャリギャリと蝉が
虹村 凌

ギャリギャリと蝉が鳴いているのだが
どの音がどの蝉なのかわからないので耳を塞いだ
ひぐらしが鳴いていても
悲しくなるので耳を塞いでいる
口に咥えたままの煙草の灰が
洗いたてのシャツに引っかかって
白黒灰色の線を引いて何処かに消えた

喫煙所の前に立っていたのに
知らない奴らが睨むように
蔑んだ視線を投げてくるから
視線を外してうつむいた

走る
走る
ドアを開ける
家に入る
ドアを閉める
鍵を掛ける
クーラーを入れる
ブラインドを閉じる

この中にはとりあえず敵がいない

テレビのスイッチを入れて音を消す
パソコンを立ち上げて音を消す
冷蔵庫からジュースを取り出して飲む
テレビでは死んだ人や捕まった人の写真が次々と出てくる
パソコンの中では細かい文章になって生きたり死んだりしている
クーラーの冷たい風が頭を撫でていく
遠くで蝉がギャリギャリと鳴いている

性格が悪い女だと思っていたら
誰かが「典型的なB型女だよね」と言った
どうでもいいがその女は意外にも
ショートケーキが一番好きだった


自由詩 ギャリギャリと蝉が Copyright 虹村 凌 2009-08-15 07:29:51
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