帰路
山中 烏流





自転車を転がして
きみの帰る坂道を
すれ違っていく

街灯の影が頬を寄せて
わたしの帰路を
こっそりと示したけれど

すぐには帰る気になれずに
坂道の終わりで立ち止まった

そんな夜



いつか聞いた話は
いつか聞いた話、として
どうしても
処理されてしまう

例えばそれが
どんなに大切なことでも
その結果は変わらないし
変えることもできない


だから
蝉の声が
ただの音であることも
通り過ぎた様々は
二度と、戻らないことも
もう
理解はしているというのに

その認識を
思うように変えられないのと同じく
わたしは
きみのいない隣を
どうしても
信じきることができないままに


そっと、
自転車を横たえる



腕時計から
長針の傾く音がして
振り向いたけれど
そこに誰もいないことを
わたしは知っているし
ましてや
いて欲しい誰かがいることを
期待することもない


日付を変えるには
時間が残り過ぎていて
持て余す夜

横たえた自転車の
ペダルを空回りさせては
そんなことを考えた
どうしようもなく
寝苦しくなりそうな夜



行き先の違う
ふたりの帰路の真ん中で
誰もいないことを確かめても

きみが
腕を引くこともない





そんな、帰路













自由詩 帰路 Copyright 山中 烏流 2009-08-14 02:25:56
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