ザ・レバー
花形新次

(スプリングスティーン風に)

俺は将来に希望もなく
ただ眼の前にぶら下げられたエサに
食らいつくだけの犬みたいな存在だった
そうする以外に生き方を知らず
それに疑問すら抱かなかった

でもね、シンディ
俺はおまえと出会ってはじめて
自分自身の言葉で
身体のずっと奥の方から溢れ出す感情を
伝えなきゃいけないと思ったんだ
俺はおまえと親しくなりたくて
思い切っておまえを食事に誘った
おまえは躊躇せず、笑顔でOKしてくれた

そうさシンディ
おまえはレバ刺しが好きだった
だから
二人でよくレバ刺しを食べに行った
俺の兄貴の車を借りてコリアタウンまで

つきあって1年
2月のおまえの誕生日
今はなくなってしまった横須賀のホテルで
はじめて俺達は愛しあった
何年に一度かの大雪で、とても寒い日だった
俺達はホテルのベッドの上で
お互いが溶け合ってひとつの物質になってしまうと錯覚するほど
何度も何度も愛しあった

それから
二人でレバ刺しを食べに行った
もっともっと愛しあうために
大雪のなか京浜急行に乗って横浜まで


結婚式の日
おまえのお腹には子供がいて
ウエディングドレスでそれを隠すのが大変だった
それでもドレスのまま街を歩くおまえを
みんな立ち止まって見ていた
「綺麗だわ。」と口々に言いながら
それを聞いて、俺はとても誇らしかったのを覚えている


あれから14年
あの頃のことがどんどん遠い過去になって
俺達は白髪の数の多さを競い合うような年になった
もう、あれほど激しく愛しあうことはないけれど
静かで揺るぎない愛の火はずっと燃え続けている
俺の人生を変えてくれたおまえへの愛と感謝はこれからもずっと変わることはない

でもね、シンディ
いい加減レバ刺しを食べに行くのは止めようじゃないか
俺のレバーはフォアグラ状態なんだ
何とかGTPって数値を知ってるかい
とんでもないことになっているんだ
「漢方では自分の悪い部分と同じ部位を食べると良いというのよ。」
とおまえは平然と言うけれど
俺のレバーは悲鳴を上げて
もうどうしようもないことになってるのさ
だからシンディ
レバ刺しはもう終わりにしようじゃないか








自由詩 ザ・レバー Copyright 花形新次 2009-08-13 21:15:16
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