国民学校生だった
照留 セレン

祖父は校庭の ごしんえい の前で
赤い花を拾ったという

教師はそれを見つけて
花を千切ったな と怒鳴ったと
そして拳骨を食らわせた

その教師の名と
その憎々しさは今でも覚えている と
万能茶で割った焼酎を飲みながら
赤い顔をして祖父は語った

幼いころから見てきた祖父は
変わらないように思っていたが
この頃は足が痛むという
耳が遠くなったらしく
私のつぶやきはもう聞こえない

大工を辞めて出てきたお腹と
ワゴン車に貼ったもみじマーク

おまえの花嫁姿が見たい という
小さい時に聞いたのと同じ言葉が
少しずつ 切実に迫ってくる

祖父は年をとってしまった
私は大きくなってしまった

ごしんえい は只の写真で
てんのう は人間で

校庭の花はもう咲かない


自由詩 国民学校生だった Copyright 照留 セレン 2009-08-13 19:57:48
notebook Home