夜と風
木立 悟






氷の角度の緩いほうから
あけるつもりもなくあけた扉から
かわいた風が入りこみ
指のふくらみのはざまに熱い


奏でること
月から目をそらさずに
奏でること
奏でつづけること


ある日誰かが
金と緑を歩みはじめたとしても
悲しむことはない
悲しむことはない


地が空を覆い
わずかな炎が
風を降らせている
枝に見え隠れする音のなかで


光の上の光が
さらに上へと去ってゆく
空に渦まく
つらなりは 空に渦まく


虫の羽のにおいの夕立
遠くから来て遠くへゆく水
水たまりをつなぐ光の背
銀のにおいを歩み去る背


これらがわたしへ真っ直ぐの
永く鋭利な恨みなら
わたしは
呑みほします


ひとりを空に描きすぎて
ひとりはひとりへ降りそそぐ
道の上を飛ぶ道のうた
ひとりはひとりに降りつもる


上手く鳴けない鴉
鐘に戸惑う石
雨を含んだ晴
皆 どこかへ向かう


水の傷が
水のなかに止まっている
風は冷め
星へのばされる手を照らす



















自由詩 夜と風 Copyright 木立 悟 2009-08-12 21:42:50
notebook Home 戻る