ホワイトスノー
ひとなつ
ラッキーなことに、虫歯が出来た
私には砂糖をおつまみのように手掴みで貪る習慣があるので
虫歯くらい出来て当たり前といえば当たり前だった。
砂糖はどんな食べ物や飲み物にもよく合う。
例えば今日の場合は左手にコーヒーを、そして右手では砂糖を摘み直接口に運んでいた。
つけあわせに牛乳もあるとなお良い
牛乳はストローで紙パックから直接飲む。
寝る前はぬるいミルクにする
何も入っていない透明のグラスをレンジで温めて、
そこに牛乳を注ぐと冷たい牛乳もいくらか生ぬるいミルクになる。
(注:私は冷たいものを「牛乳」、生ぬるいものを「ミルク」と呼び方を定めている。)
話を戻すと、歯を磨き、これから寝るぞというときに砂糖を舐めるような生活をしていたため、
私は虫歯になったのだ。
虫歯は甘いものを好む。
そして甘いものを食べて成長した虫歯もまた甘い。
舌先で虫歯の箇所をなぞると、とても柔らかく
とても甘いのだ。
私はその、上の左から3本目の歯に出来た虫歯に「ジェリー」という名前を付けた。
ジェリーと出会ってからというもの、私の生活に砂糖は必要なくなった。
コーヒーは口に入れた途端、自動的に「低糖」と言われる具合にまで甘くなったし、
辛口のカレーも自動的に甘口になった。
大抵の人はこの自動的なランク下げが嫌で虫歯を治療してしまうが、私は甘党。
いつでもジェリーの虜だった。
甘味に対して敏感らしい舌の先端部で、上の左から3本目の歯を舐め続けたので、いつでも口の中は甘かった。
どこまでも甘い生活。。。
あまりに嘗めすぎたために舌先に炎症が出来た。
医者が言うには、この炎症は過度な充血が出血を引き起こし、
その傷口が細菌の温床となり、このように赤く腫れ上がったのだと言う。
「放っておくと、膿になるからしばらくは、なるべくここに食べ物が触れないようにして下さい。ちょっとだけ辛いけどそうして下さい。そのほうが早く治るんで、飲み薬で抗生剤と消炎症剤を出しておきます。それと
来週こられる日はありますか?」
医者はそう聞いてきたが、来週はあいにく来られない、と答えた。
なぜなら
来週末はジェリーと遊園地に行く約束をしているからだ
その遊園地の売店でかき氷を頼み
店員に「シロップはいかがなさいますか?」
と聞かれたら、私は待ってましたとばかりにこう答えるだろう。
「ホワイトスノー」
ブルーハワイでもハイビスカスレッドでもなければ銀シャリでもない。
そのままいただきますという意味を持った、読んで字のごとく「白い雪」だ
そういえば私は毎年冬になるとココアを鍋で作る習慣もあった
鍋底に大量のココアパウダーを敷いた上に砂糖をばら撒き
「嗚呼、なんて綺麗な雪なんだ。
君を一目見て、くまも、うさぎも、虫たちも、みんな冬眠のしたくを始めたぞ」
これをやるのが冬の楽しみのひとつであったが、
今年の冬はジェリーのおかげで砂糖が必要なくなってしまった。
しかし、それが出来ない代わりに今年の夏はなにも加えない無添加のかき氷を
「ホワイトスノー」
と呼べるのだ。
そう考えると夏も悪くない気がした。
私は調子に乗って夏休みの予定表にこう書き加えた
「死海に行く」
世にも甘過ぎるジェリー、今年の夏は死海でサーフィンだ。
君がいれば溺れかけたときのあの塩辛い海水もゴクゴクいけそうな気がするぞ。
君は死海の塩分濃度ですら中和してくれそうだ。
こんな時代に手紙を書いてみた。
宛先は自分の住所。内容はこうだ
Dear ジェリー
“この夏は例年より、甘すぎる日が続くはずさ。”
ひとなつ....