孕む、風を、未来を
望月 ゆき

   
ぼくたちの未来は いつも、さよならで終わっていくの?



地球儀をまわしすぎたせいで
透きとおっていたものが
濁っていく 
あの日、
チョークで描いた線路が滲んで
二十世紀はもう どこかに消えてしまった


ぼくたちはいつも、くりかえし
動物から産まれる
まだ見えない眼で
乳房をさがした、あの夏に
細く、戦争は閉じられた
乳房には無数の川がながれ、乳腺はおだやかに
ひらかれつづける


人知れず、夜の葉かげで
羽化したばかりの蝉を 標本にする
ぼくたちの、そのやさしさを 誰かが
罪と名づける
名づけたがることの罪の重さを
知らないまま


散らばりたいと、思っていた ずっと
風から いちばん遠いかたちで
なのに
それと知らない過去によって ぼくたちは
いつだって、束ねられてしまう
どんな朝も決してありふれてはいないのに


川は、今もながれているだろうか
測れない水位を見下ろして
立ち止まったままのぼくたちを、
日照りの空が嘲笑している
からだの中を 言葉がめぐりつづけているのに
罫線がひかれると
それはもう、声になれない
それでも、


それでも
できることなら、ぼくたちも
誰かの未来を産んで、そして
そのとんでもない不幸を 真実と名づけて
ときどき、それと嘘を入れ替えたりして
終点のない線路の上で、
遊ぼう





『未詳02』掲載作品



自由詩 孕む、風を、未来を Copyright 望月 ゆき 2009-08-11 17:30:28
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